アメリカから見る政権交代の必要性 霍見芳浩教授

take

2009年05月30日 14:51

ニューヨーク市立大学教授の霍見芳浩氏にいただいた論文を掲載します。
この論文は「ニューリーダー」6月号に掲載されたようです。

 ニューヨーク市立大学教授
 霍見芳浩

 訪中直前に、麻生首相が党内外の靖国神社族に媚びて、東條英機以下のA級戦犯を合祀している靖国神社大祭に鉢植えの神木を供え、これに中国と韓国が強く反発したと当地のニュースになった。麻生首相の訪中は、北朝鮮の核脅威を除く為の日中共同歩調の相談との触れ込みだったから、首相の献木行為は外交感覚麻痺と笑われた。それだけではなく、かつての太平洋戦争や中国侵略の責任を認めないのかと麻生首相の歴史認識と道徳感覚が疑われた。こんな首相を抱く日本への公式訪問はオバマ大統領は考えたくないのもよく分かる。


 この頃、私は日米人のある会合で、話をする機会があった。米国、いや世界から見た麻生日本観を即席の風刺ジョークで切り出した。『オバマ大統領、麻生首相、そしてサルコージ仏大統領が揃って、実体の無いソマリア政府を訪ねて、ソマリアの海賊を取り締まってくれと要求した。ところが3人ともにソマリアの海賊に捕らえられ、銃殺される直前に、最後の願い事を一つだけ許された。サルコージ大統領は「この世の名残に仏国歌のラ・マルセーユを歌いたい」と言った。麻生首相は「一つだけ言い残しておきたい事がある。日本は中国を侵略した事も、残虐行為を犯した事もない。また、真珠湾攻撃はルーズベルト大統領に嵌められての事だった」。これを聞くと、オバマ大統領が「もうがまんならん。俺を最初に撃ち殺してくれ」と叫んだ。』

 この風刺ジョークに居合わせた米人は声を出して笑ったが、ほとんどの日本人はキョトンとしていた。風刺ジョークを理解するだけの英語力不足と言うよりは、麻生首相はじめ靖国族達が平気で口にしている「大東亜聖戦説」というまがいものに鈍感なせいだった。米人が笑ったのは、多くが、「この頃の日本はオカシイよ」と親日家であればあるほど心配しているからである。

 聞くところによると、日本の外務官僚は麻生首相の言いつけ通りに、「日本のイメージ改善」の為に、19歳の女優を偽せ高校生に仕立てて、ミニ・スカートとブレザーの制服を着せ、これに「原宿ガール」と「秋葉原ロリーター」のコスプレの二人をつけて、欧米に「カワイイ大使」として派遣する。税金の無駄遣いもさることながら、こんなコスプレ3人娘のファッション道中で、大東亜聖戦の迷妄をふりまく日本の悪イメージが薄まると思っているのなら、首相にも外(害)務官僚にもつける薬はない。

 本誌の先月号で、劣化した日本の検察による民主党潰しの小沢代表の冤罪国策捜査を批判したら、読者から「小沢は民主党代表を辞めるべき。田中角栄は逮捕された時に、自民党を離れ、けじめをつけた」という反論があった。私は、「逮捕も、起訴もされていないのだから、小沢代表は辞める必要はない」と返事をした。「検察は正義、政治家は悪」などという迷信にしがみついていると、小泉、安倍、福田、そして麻生と続く、自公政権が日本の政治、司法、経済、社会、教育を破壊しているのに気付かない。5月半ば、小沢氏は民主党代表を辞めて、民主党潰しを狙っていた麻生首相に肩すかしを喰わせた。「世論に負けて」との声も日本から聞こえてきたが、世論を無視する自公与党のお歴々と較べると、小沢氏の行動はすがすがしい。米国の知日家の間では、「小沢辞任は総選挙を控えて絶妙のタイミングであり、政治家としてのリーダーシップ発揮だ」と好評である。新代表の鳩山由紀夫氏は、麻生「秋葉原セレブ」首相と異なり、リーダーに必要な歴史感覚、国際感覚、国民への思いやりを持つ。

 日本と比べると、米国では民主的法治主義とジャーナリズムによる権力監視が機能している。しかし、これまでのブッシュ政権の8年間に、民主的法治主義は大きく傷つけられ、大統領の憲法無視の国民の無断盗聴に加えて、テロ容疑者を米国内外で国際法でも米国法でも違法の拷問に掛けて詰問していたのが続々と明るみに出ている。この事は、既に、勇気のあるジャーナリストやブッシュ政権のホイッスル・ブロワー(内部告発者)の手で、公表されていた。しかし、ブッシュ大統領もチェイニー副大統領も「拷問を許可する」という大統領文書が秘匿されているのをよい事にして、白を切り続けて来た。

 政権交代の利点が旧政権の責任追及だから、国民の要望に答えてオバマ大統領は、就任と同時に、「拷問禁止」を内外に宣言し、続いて4月、法務長官がブッシュ大統領の拷問許可文書やメモを公表した。しかし、再発防止にはこれだけでは不十分だから、内外の「民主的けじめ派」はオバマ大統領に対して、ブッシュ政権下の違法拷問の真相究明委員会の設置とこれで明るみに出される首謀者の懲罰を要求している。

 オバマ大統領の側近の中には、法治主義感覚が鈍い者も居て、大統領に対して真相究明委員会は必要なしと進言している。しかし、真相究明のけじめと首謀者の懲罰無しには、「オバマはブッシュの犯罪を隠匿する」との疑いが広がり、オバマ大統領としての資質の軽重が問われることになる。このままでは、「太平洋戦争責任を認めない麻生、ブッシュの拷問犯罪を認めないオバマ」との日米首脳の批判が広がるのは避けられない。 

 これまで公表された「ブッシュ拷問メモ」では、「01年9月11日のアル・カイダ・テロの米国攻撃の背景と首謀者究明」というのは米国民を欺く口実で、実は、大統領就任以前から狙っていたイラクへの独断侵攻と占領の口実探しだったのが明るみに出た。「アル・カイダの後盾はイラクのサダム・フセインであり、サダムは生化学大量破壊兵器に加えて核兵器入手も間近だ」というデッチあげだった。このウソ八百の裏付け作りに、03年3月のイラク侵攻まで、そしてその後のイラク占領でもテロ容疑者や捕虜を拷問に掛け続けたのだった。しかし、遂に、アル・カイダとサダムの協力の証言は取れず、サダムの大量破壊兵器も無しと分かった。それでも、ブッシュは、米国民へはウソをついたままイラクに侵攻し、侵攻後もアブ・グレイブ収容所での悪質な捕虜拷問が明るみに出た。しかし、ブッシュは「一部の不心得兵士の仕業だ」と白を切り続けていた。 

 小泉純一郎首相(当時)がイラクに自衛隊を派兵する為に、ブッシュに言いつけられたとおりに、日本国民に対して、「米国がイラクの大量破壊兵器を取り除く為に侵攻占領するのだから、日本も手伝う必要がある」とウソ八百を広めていた。今、ブッシュの拷問メモの公表で、ブッシュそして小泉日米両首脳の国民騙しが明らかになっている。オバマ米国は早晩この真相究明を行う事になるが、麻生日本は、小泉以下の歴代の自公政権のウソと国民を欺いた責任の究明には手をつけまい。日本のイラク占領参加の真相究明や太平洋戦争責任の確認、そしてブッシュの市場原理主義による日本の金融と経済破綻の真相究明にも民主党との政権交代が欠かせない。

(以上)

関連記事