You-can-do-it スピリット

take

2009年06月23日 07:00

アメリカのミシシッピ大学大学院留学の2年目、ルームメートだったクロード(拙著の中心人物の一人)が、夏休みにインターンを希望していると話してきた。どこでインターンをしたいのか聞くと、「メトロポリタン美術館」が第一希望だと何気なく応えた。彼には申し訳ないが、耳を疑った。

えっ、あのニューヨークの、いや、アメリカを、いや、世界を代表するメトロポリタン美術館か?当時はまだまだナイーブだったので、思わずびっくりして聞きなおしてしまった。しかし、大学院での彼の成績と研究に打ち込む態度を考えると、そのインターンを実現してほしいと願った。聞けば、ある程度の額も「給料」としてが支払われるということだった。しかし、アメリカ国内では教育レベルが低いことで知られているミシシッピ州だ。しかも、ミシシッピ大学は総合大学で美術の専門大学ではないから、難しいのでは、と否定的な理由ばかり勝手に並べていた。


1カ月後、メトロポリタン美術館から1通の手紙が彼のもとにやってきた。「受け入れる」という返事だった。当時、クロードは47歳か48歳だった。


近所の友人らとクロードを祝っていると、彼はぼくに言った。


“You can do it. Because I can do it.”
「おまえもできる。だって、ぼくにもできるのだから」



当時は英語もまだまだまともに話せず、ライティングも今とは比較にならなかった。そんなぼくにこんなことを言ってしまうこのクロードって男ってすごいと思った。彼は黒人で、同性愛者で、貧しい家の出だ。言ってみれば、いろいろな角度で社会から差別を受けてきた人間だ。それでもひねくれていない。ポジティブ思考だった。彼はたびたびこの
You can do itという言葉を使ってきた。彼だけでない。アメリカにいたときはよくこの言葉を聞いた。



実はその2年後、自分もワシントンの政治とジャーナリズムのインターンシップに受け入れられた。全米で13人しか受け入れないプログラムだった。クロードに叩き込まれた
You can do it精神のおかげだった。

英語を教えている生徒にもジャーナリズムを希望する若者にもクロードのまねをして言うのだ。
"You can do it!"  って。


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