2012年05月06日
関電と無責任政府の「耐震偽装」
138万人が住む京都市から大飯原発まで60キロメートル、福島市と東京電力福島第一原子力発電所と同じ距離です。
1.『関電と政府は、重要部分で「耐震偽装」している』
大飯原発の安全宣言は疑問。政治判断が原発震災を招く
(神戸大学名誉教授 石橋克彦)
野田政権は、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)について、関電の安全対策が新たな安全基準に適合しているとして、事実上の安全宣言を出した。だが、基本的な耐震問題を検討せずに再稼働を妥当としたのは、無責任で危険極まりない政治判断である。
新たな安全基準は、事故が起きた後の拡大防止策が主で、しかも非常に不十分だ。事故が起きない耐震性こそが根本なのに、関電と政府はこの重要部分で「耐震偽装」をしている。調査が継続中の東京電力福島第1原発事故の原因も踏まえておらず、炉心溶融の一歩手前まで容認しているとも受け取れる。(中略)
大飯原発の耐震設計の基準となる地震動は、2本の海底活断層が連動するマグニチュード7.4の地震によるものとされ、最大加速度700ガルである。
しかし、陸域の活断層を含めた3連動を想定すべきだという指摘が想定すべきだという指摘が強く、関電は、その必要はないとしながらも「念のため」その場合の地震動を計算して、最大加速度760ガルとした。これは、ストレステストで限界とされた1260ガルを下回るから大丈夫だという。
しかし、この760ガルは、2種類の評価手法のうち、結果が小さく出る手法で求めたものにすぎない。760ガルはむしろ、予測の下限と考えたほうがよい。
多くの地震学者が、昨年の東日本大震災以降、日本列島全体で大地震が起きやすくなったと考えている。なかでも、歴史上複数の大地震があって活断層が密集している福井県の若狭湾地域は、大地震発生の恐れが強い。(中略)
「夏の大幅な電力不足」は真偽不明だし、あったとしてもごく短時間にすぎない。それに対して、万一原発震災が起これば最悪日本は滅びる。
福島第1原発事故の大きな教訓の一つは、「起こる可能性のあることはすぐにも起きる」ということである。この事故を大自然からの厳しい警告として痛切に受け止め、予防原則を最優先に考えなければ、地震列島の日本に住む私たちは再起不能に至るかもしれない。
いしばし・かつひこ:44年神奈川県生まれ。地震学者。旧建設省建築研究所室長を経て96年~08年に神戸大学教授。著書に「原発震災」など。(共同通信社・識者評論「原発再稼働問題」/2012年4月14日出稿より)